今日は予約しているお客さんがいつもよりも少なくて、助かった。
あんまりにも大勢押し寄せてしまうと、また焦って失敗してしまったりしてしまうから。
だから、少ないと言うのは嬉しいことに感じてしまう。
忙しいのがいいと言ったり、本当に我ながらわがままだと思っている。
だけど、そう思ってしまうから仕方ないんだよね。
そして、あれからマコトさんはあのアイデアが通ったとの事で、喜んでいた。
一番評価されたのは、廃材を利用して温かみのあるテーブルと言う部分だったみたい。
近年では、地球環境に対しての関心が高まっているから、エコや省エネの商品が増えてきている。
その流れに乗ってアイデアを出してみたけれど、まさか採用されてしまうとは。
私もたまには役に立つアイデアを出せるんだな・・・。
正直びっくりしている。
だけど、マコトさんの役に立てたという事は、素直に嬉しいこと。
「さき、今日は普段よりも少しだけ余裕がありますね。
手が空いたとき、明日の準備でもしておきましょうか?」
「そうだね、今日は余裕があるから明日の準備でも進めようかな?
ハル、今日も宜しくお願いします!」
「任せて下さい!」
二人でお互いを奮い立たせる。
こうしていつも私たちはお店を開店させている。
やっぱり、何かこう奮い立たせるようなものが無ければ、やる気が出せないからね。
それから私たちは、開店の準備を始めて行く。
材料も揃っているし、テーブルも綺麗にしてあるしこれで準備万端かな?
予約しているお客さんは午後18時に来店する予定だし、これで安心だ。
何事も準備は念入りにしておいた方がいいもんね!
私もハルもやる気をみなぎらせて、今日の開店準備に力を入れて行く。
調理師免許を持っているけれど、最近では管理栄養士の資格も取りたいなって考えているんだ。
確かに美味しい料理を提供するのも大事だけど、カロリー計算とかもっと栄養についての知識もあった方がいいと思うんだよね。
何か役に立つかもしれないし、常連さんにはいつも来てもらっているお礼に何か裏メニューとか作ってあげたいなって思っているから。
「ねぇ、ハル、常連さんにはさ、何か裏メニューを作ってあげようよ!
いつも来てもらっているお礼と言うかさ」
「それはいいですね!
常連さんは、やっぱり大切にするべきですものね!」
「それでね、私、管理栄養士の資格を取ろうと思うんだ。
ほら、お店のメニューって少しカロリーが高いじゃない?
だから、裏メニューでは健康に良いメニューを作ってみたいんだよね」
「いいとは思いますが、それだとまた学校へ通う事になりますよね?
さき、お店もあるから大変ではありませんか?」
言われてハッとした。
そうだ・・・管理栄養士の資格を取得するためには、そういった学校へ通う必要があるという事だ。
それも2年とか短期間ではなくて、4年という月日が必要とされる。
そのことをすっかり忘れていた・・・。
学校へ通うとなれば、お店の切り盛りが出来なくなってしまう。
それでは困ってしまう。
でも、今は通信講座も出てきているからそっちで探したら出てくるかもしれない。
私は近くにあったパソコンを開き、調べてみた。
すると、今は通信講座で管理栄養士の資格が取得できるようになっていた。
「ハル、私さ通信講座で勉強するよ。
そうしたら、お店と両立できるでしょ?」
「ですが、お店が始まる前と終わった後に勉強するんですよね?
身体壊したりしませんか?」
「だいじょーぶ!
迷惑かけないように頑張るからさ!」
ハルは渋々納得をして承諾してくれた。
両立させるのは大変なことだと思うけれど、資格はしっかり取りたいんだ。
体調を崩してしまわぬように気を付けながら、頑張っていこう!
あまり頑張ろうと躍起になると体調を崩したりするから、適度に頑張る気持ちを持とう。
通信講座に必要な教材があるため、私はネットから申し込みをした。
管理栄養士の資格は最短8か月で取得することが出来るようだ。
簡単に言ってしまえば、半年強だけ必死に頑張ればいいという事だ。
そんなことを話していると、予約していたお客さん達がやってきた。
雑誌で取り上げられてから色々なお客さん達が来てくれるようになった。
ただ、常連さんも大事にしたいから予約はいっぱい入れないように少し枠を残している。
差別とか思われるかもしれないけれど、常連さんは以前から通ってくれている人達だから、少しくらい優遇したっていいと思うんだよね。
「注文お願いしまーす!」
「はい!」
早速注文が入って、私はキッチンへ行き料理を作り始めた。
料理するのって昔は興味がなかったけれど、今では作るのが楽しくて仕方ない。
今だってたまに失敗する時があるけれど、それもいい経験だと思う。
失敗するほど成功につながるから、決して失敗は無駄じゃないと思うんだ。
出来上がった料理を、ハルが丁寧にかつ急ぎながらお客さんの元へと運んでいく。
皆美味しそうに食べてくれるから、ついつい見入ってしまう。
私も誰かの為になっているんだなって思える。
「やほーっ、神楽センセ!」
「こんばんは、神楽先生」
すると、お店にある人物たちがやってきた。
その人物は、橋本さんと真城さんだった。
どうしてこの二人がこのお店に来たんだろう・・・そもそもお店の場所を教えたことが無かったんだけど、よくわかったな・・・。
それに、この二人が一緒に来るなんて初めてだし。
まるで、あの頃の私とハルみたい。
二人を見ていると、あの頃の出来事を思い出して懐かしくなってしまう。
「どうして二人がここへ?」
「理事長からお店の場所を聞いたんだ!
神楽センセが急に辞めるから来たんじゃんかよ~」
「そうですよ、神楽先生が辞めちゃうから」
二人して頬を膨らませながら怒って言う。
高校生らしいと言うか、純粋に可愛らしいと思ったけれど、言ったら余計に怒られそうな気がして私は何も言わないでおくことにした。
そうか・・・理事長からこのお店の場所を聞いたのか。
確かに勝手にやめてしまったから、クラスのみんなと挨拶が出来なかった。
皆元気にしているかな?
二人してメニューをじっと見ている。
お腹を空かせているのかな?
二人はお財布を出して、いくら入っているのか確認し始めた。
二人は高校生だからそんなにお金を持っていないんじゃないかな?
アルバイトをしていたって、付き合いとかあるし遊んだりするためにお金が必要になるだろうから。
「いいよ、私がおごってあげるから何か好きなモノ注文して。
でも、食べ過ぎはダメだからね!」
「やったーっ!!
真城、たくさん食べてやろうぜ~」
「たくさん食べます!」
「おいっ!」
「あはは!」
私が軽く怒ると、二人が楽しそうに笑った。
たくさん食べられてしまったら、私のお金がなくなってしまう。
出来れば、駄菓子と両立よく食べてもらえればいいんだけれど・・・まぁいいか!
私は二人が食べたいと言ったメニューを作っていく。
腕によりをかけて、一生懸命に作っていると、二人が私の方を見ていた。
カウンター席からはキッチンが見えるから、やっぱり目に入るんだと思う。
それにしても、こうじっと見つめられていると何だか緊張してしまう。
「それで、二人はどうして一緒に来たの?
前から親しかったっけ?」
「あー、お互い神楽センセに救われたことを話したら、意気投合しちゃってさ!
それで、気付いたら仲良くなってたっていうわけ!」
「そうなの?」
「うん、神楽先生の話してて、そしたら仲良くなっていたの!
今では親友みたいな感じなんです!」
そうか・・・いつの間にか私の話をしていたのか。
自分の知らないところで、自分の話をされているとなんか恥ずかしくなってしまう。
だけど、私の話をしていて二人が仲良くなってくれるのは、すごく嬉しい。
正反対の二人だからあまり話したりしないのかなって思っていたけど、違ったみたいだ。
二人を見ていると、本当に私とハルみたいだ。
私が料理を作り上げて、二人に出してあげると二人がいただきます!と元気に言って食べ始めた。
余程お腹を空かせていたのか、二人してがつがつ食べている。
そんな姿が嬉しくて、可愛らしくて思わず笑ってしまった。
しかも、二人で頼んだメニューを半分こしている。
二人とも優しい子なんだっていうことを私は知っている。
橋本さんたちも、私とハルのようになるのかな?
もし、二人に何かあった時はぜひ力になってあげたいな・・・。
「神楽センセ、料理チョー上手じゃん!
すっごい美味しいんだけど!」
「うん、すごく美味しいです!
あげぱんも食べたいです!」
「あげぱんにアイス乗せると美味しいよ!」
「マジかよ!!
ちょっ、真城やってみよう!」
「やろう!やろう!」
本当に楽しそうな二人を見て、私もハルも笑ってしまった。
その姿を見ていた、他のお客さん達も“仲がいいね~”と言って笑っている。
こんなに心が温まるのって、嬉しいけど胸がきゅうってなる。
ずっとこんな日が続けばいいのになって、わがままなことを考えてしまう。
二人がどんなふうに成長していくのか、今後楽しみだな!
私も偉そうに人の事は言えない立場だけど、応援してあげたいし困った時には力になってあげたい。
二人は通信制高校を卒業したら、どんな道へ歩いていくんだろう?
進路決めが近くなったら、少しだけ聞いてみようかな。