毎日忙しく過ごしているせいか、何だか生き生きしてきた。
以前までは、学校へ通うのも働くのもあり得ないとか思っていたけど、そんなことなかった。
通信制高校に通うと色々な人達と話せるし、たくさんのことに気づかせてくれる。
学ぶのは勉強だけではなくて、人間関係とか感情とか精神的にも成長させてくれるような気がするんだ。
働くことでお金の大切さやお金を得ることが、どんなに大変なことなのか知ることが出来たし励ましてくれる仲間や喜んでくれるお客さんもいる。
ずっと不登校のまま引きこもっていたら、こんなことに気付けなかっただろう。
「さき、そろそろテストだけど勉強してる?
私は相変わらず赤点取りそう・・・」
「うん、勉強してますよ。
友達からビシバシ鍛えられて、課題も進めてるところなんです」
「さきってさ、ホント真面目と言うか頑張り屋だよね。
バレーの練習も一生懸命だしさ」
マコトさんが苦笑しながら言う。
私には無理、そう言って笑っている。
以前の私なら考えられないことが、今現実に起きている。
一番びっくりしているのは、他の誰でもない自分自身。
人ってここまで変われるものなのだろうか。
マコトさんが勉強したいという事で、私達はスクーリングの帰りにカフェに寄った。
店内は人が少なかったから、邪魔にならないだろう。
マコトさんが教科書とノートを開き、早速大きなため息をつく。
「マコトさん、まだ開けたばかりじゃないですか」
「だって難しいのが目に見えてるからさー!」
確かにそうなんだよね・・・一度難しいと感じてしまえば、抜け出せなくなる。
私もだから勉強って嫌いだったし避け続けてきた。
でも、ハルから教わって問題を解いていくたび、何だか楽しくなってすらすら解けるようになっていた。
解けるとすごく楽しくてもっと問題を解いてみたいと思える。
マコトさんの苦手分野を確認すると、それは私とまったく同じだった。
「私も解けなくて、友達から教わったんですけど・・・。
ここは、えっと・・・この公式を使って解くみたいですよ」
そう言いながら、私は自分のノートを開いて確認した。
ハルから教えてもらったことを、全てノートにまとめて書いたからノート自体はちょっと汚いかもしれないけど、こうして役に立っているからいいかな?
メモしておけば困った時に確認できると思って、ノートに書いた。
そのノートを見て、マコトさんが驚いてまじまじと見てきた。
汚いから気になったのかな?
「っていうかさ、さきはホント努力家だよなー。
あたしも見習わなきゃいけないかも」
「私ね、夢があるんですよ」
「なになに、言ってみ?」
「笑われるかもしれないけど私、誰かを笑顔にさせられるような存在になりたいんです」
私は俯きながら言った。
実は、今バイトをしていてお客さんの笑顔を見てそう思ったんだ。
私も何か提供してもっと多くの人に喜んでもらいたいなって。
お店を出すのもいいし、何かをして喜んでもらうのもいい。
誰かを笑顔にさせるようなことをしてみたい。
こんなこと言っても笑われるだけだろうな・・・。
「笑うわけないじゃん。
それってさ、すごく難しいことだと思うけどいい夢だとあたしは思うよ。
笑われたってさ、笑われるような夢ほど誇れるものだと思う。
簡単に叶えられるものは、夢とは言わないからね」
「そうかな?」
「笑われる夢ほどあたしは誇らしいと思うべきだと思うけど?
誰かを笑顔にさせるって単純かもしれないけどさ、結構難しいんだよね。
でも、さきならきっと叶えられるような気がする」
マコトさんが笑いながら言う。
笑われる夢ほど誇らしい、そんな考え私にはなかった。
他人なんか気にするなって言ってくれたのかな?
何だか嬉しいな、応援してくれる人がいるっていうのは。
その時、叫び声が聞こえてきて私たちはその場で固まった。
「今の声何?」
「行ってみましょうか?」
私達は声が聞こえた方角へと走って行った。
そこには少し人だかりが出来ていて、すごいことになっていた。
ちょっと待って・・・どういう事?
見てみると、道端に血まみれで倒れている男子高校生の姿があった。
血の海と化していて、周囲の人達も顔を青くしてみている。
その周りには、はな達の姿がありみんな刃物や武器を手にしているのが確認できた。
もしかして・・・もしかしてはな達がこの男子高校生を?
「私見たんです、あの子たちが寄ってたかっていじめているところを!
手にしている物を何度も彼の身体に浴びせていました!」
「とにかく、全員警察署へ連行だ!
一刻も早く彼を病院に連れて行くんだ!!」
警察官が何人かやってきて、はな達をパトカーへ乗せて去っていく。
男子高校生も救急車に乗せられて運ばれていく。
彼、大丈夫かな・・・死なないと良いんだけど・・・。
やっぱり、あのグループを抜けて正解だったと思った。
今頃私もつかまってしまう所だったから。
「さき、あのグループから抜けて良かったな・・・。
あれはもう殺人未遂だよ」
そうだよね・・・あれは脅しなんかじゃない。
殺人未遂で、彼が助からなければ立派な殺人になってしまう。
本当にまだ続けていたら、大変なことになっていた。
パトカーが横を通り過ぎていく瞬間、私は後部座席に座り涙目になっているはなと目が合った。
口を開き何かを言おうとしていたみたいだが、わからなかった。
「さき、行こう」
「うん」
私はマコトさんに言われて、再び歩き始めた。
何か嫌な場面に遭遇しちゃったな・・・。
このまま帰るのは何だか気まずくて、私達はお好み焼き屋へと向かった。
そう、私が働いているお好み焼き屋へ。
他のお店でも良かったんだけど、マコトさんがそう言ったから。
お好み焼き屋に着いて、中へ入ると常連さん達が来ていた。
「あれ、さきちゃん今日バイトじゃないのか?」
「はい、今日はお休みなんです。
友達が来たいと言ったので、お連れしたんです」
「おっ、さきちゃんの新しい友達か~。
ささっ、座って座って」
「お邪魔します!」
マコトさんが常連さん達ともう打ち解けている。
早いな・・・私なんて時間がかかってしまって、ちゃんと話せるまで時間がかかってしまったというのに。
マコトさんは、誰とでもすぐに打ち解けることが出来るみたいだ。
いいなぁ・・・私もそうなりたいな。
「さきちゃん、通信制高校頑張ってるみたいじゃないか!
部活にも入ったんだって?」
「ええ、さきは頑張ってくれていますよ。
部活はあたしが無理矢理誘ったようなもんで、付き合わせちゃってます」
「努力家だって知ってたけど、すごいよな。
オレが高校生の時なんか、遊んでばっかりだったもんな~・・・」
マコトさんが常連さん達と話している。
何だか楽しそうで割って入ることが出来なかった。
私は少し離れた場所で、お好み焼きをもぐもぐと食べていた。
何か自分のことを話されるのは、恥ずかしいな・・・。
すると、上原さんが私の隣に座った。
「通信制高校で新しく出来た友達が、あの子なんだな。
君の事をよく理解してくれるいい子じゃないか」
「はい、ハルとはまた違った視野を持っているので、楽しいです。
友達に自分を理解してもらえるのって、すごく嬉しい事だったんですね」
「さきちゃん、勉強以外にも学んでいるんだね」
「学ぶことが多くて、本当に毎日が楽しいです」
私は笑いながら言った。
通信制高校は勉強するために通っているが、学んでいるのは勉強だけではない。
人間関係とか感情とか、色々なことを学んでいる。
その間にも、マコトさんは常連さん達と話して盛り上がっている。
やっぱり、こんな風に誰かが笑ったりして楽しんでいる姿っていいなと思う。
私はどうしたら、みんなを笑顔にさせたり励ましたり、勇気づけることが出来るんだろう?