いよいよ、今日は取材をしてもらう日となっている。
何だか緊張してきてしまったから、ハサミと糸を取り出した。
ハサミに糸を巻き付けながら緊張をほぐしていく。
やばいやばい・・・緊張が全く取れない!
必死に糸を巻き付けて行くが、何も効果が無いような気がする。
なんだ・・・このおまじないは効かないのか・・・っ!
そんなことを考えながら、ハサミに糸を巻き付けて行く。
すると、そこへハルがやってきた。
「さき、何しているんですか?」
「これで緊張をほぐそうかと思って・・・!
ほら、ハサミに糸を巻き付けると、緊張がほぐれるって言うじゃない?」
「それって何か違いますよ?」
「えぇっ!!」
「さきったら・・・あははっ!」
ハルが楽しそうに大声をあげて笑っている。
こんな楽しそうに笑っているハルを見たのは初めてだ。
いつもおしとやかに笑う姿しか見たことが無いから、すごく新鮮で嬉しくなった。
ハサミに糸を巻き付けると緊張がほぐれるというのは、デマだったんだろうか・・・。
気が付けば、ハサミが使えなくなるほどに糸を巻き付けてしまっていた。
こんなに巻き付けてしまったら、代わりのハサミを探すしかない。
でも、ハルがまだ笑っているのを見て、私までつられてしまった。
二人して笑っている声が店内にこだましている。
「お待たせ致しました!
それでは、取材の方をさせていただけますか?」
「はい、お待ちしておりました。
早速お願い致します!」
緊張感がすっかりなくなって、気が付けばいつもの私になっていた。
さっきまでは本当に緊張していたのに、本当に不思議。
取材スタッフが集まり、店内の写真を次々に撮影していく。
やっぱりプロが撮ると違うような気がする。
私も店内の写真を撮って、ホームページに貼ったけどすごく違って見える。
やっぱり違うなぁ・・・。
次は、メニューの撮影に移り、私はキッチンでメニューを作っていく。
見られていると緊張してしまうから、スタッフにはテーブルで待ってもらう事にした。
緊張して失敗してしまうかもしれないから。
普段通りに腕によりを振るって、料理を作っていく。
「お待たせいたしました!」
「おーっ、これが給食メニューですね?
カメラ、写真撮ってくれ!」
「すごく美味しそう!
駄菓子もチャージ制で食べ放題なんですよね?」
「ええ、チャージしていただければ駄菓子食べ放題です!
良ければ食事なさいますか?」
「いいんですかっ!」
私が提案すると、スタッフさん達が喜んだ。
ハルも楽しそうにしていて、私はたくさんの料理を作っていく。
雑誌に掲載したメニューをしっかりと伝えて、写真を撮ってもらった。
コメントが欲しいという事で、そこはハルに任せることにした。
私よりもハルの方が話すのがうまいし、伝えたいことを的確に伝えてくれるから。
以前、世界の給食について調べた時は色々な給食があって驚いた。
メニューが違うと言うだけではなくて、給食をよそっているお皿なども大きく変わってくる。
韓国や台湾では、金属のお皿によそうのが主流となっているみたい。
「神楽さんはなぜ、こちらのお店を出そうとお思いになられたんですか?」
「もう一度、子供に返れるような場所を提供したいと思いまして。
私の父もよく駄菓子屋に通っていたそうなんですよね」
「なるほど、こちらのお店を出したのは、多くの人達にあの頃を思い出してほしいからなんですね?
確かに童心に返れる場所と言うのは、数少ないですもんね」
童心に返れる場所と言うのはまだまだ少ない。
少しでも誰かの役に立つことが出来れば、それはそれで嬉しい。
それから取材を受けていき、お店について話していく。
ハルを中心にして話していき、私は少し付け加えて行くだけでスムーズに進んでいる。
取材も順調で、気が付けばあっという間に取材が終わってしまった。
開店までまだ数時間残っているから、私達はスタッフさん達と一緒に料理を食べた。
懐かしのメニューばかりだから、スタッフさん達も懐かしがって美味しそうに食べてくれた。
それが嬉しくて、ついニヤニヤしてしまう。
そんな私を見て、ハルが楽しそうに笑っている。
「神楽さんは、もともと不良だったのでしょう?
なぜ、まともに生きようと思ったんですか?」
「ハルと出会って、このままじゃいけないって思ったんです。
いつもハルが私を支えてくれているから、今の私がいるんです」
「さき、それ以上褒めても何も出ませんよ?」
「いいんだよ、全部本当の事だから。
ハルがいてくれなかったら、きっと今頃私は取り返しのつかないことをしていたと思います。
今こうしてお店がうまくいっているのも、ハルのおかげだと思っています」
「そうか・・・神楽さんは、優しくて思いやりのある方なんですね。
言い方に巡り合えて、本当に良かったですね!」
そうスタッフさんに言われて、私は笑った。
本当にハルと出会えてよかったと思っている。
楽しく食事をして、話をたくさんして盛り上がっていく。
楽しい時間はあっという間に過ぎていき、スタッフさん達を見送ることに。
これでいよいよ雑誌に掲載されるんだ・・・ドキドキする。
いつの雑誌に載るのかちゃんと確認したから、発売日にはちゃんと買いたいな。
どんなふうに出来上がったのか確認しておきたいから。
「楽しみですね、さき」
「うん!」
どんな出来になっているのか、今すぐ知りたいがもう少しの辛抱だ。
ワクワクしているのは確かだけれど、あまり浮かれている場合ではない。
雑誌に掲載されたという事は、その分お客さん達が押し寄せてきてしまうと言うことだから。
これからますます忙しくなってくるんじゃないかな?
忙しさに耐えられるように、日々頑張っていかなければいけない。
忙しくて体調を崩してしまわぬよう、しっかり管理していかなければ。
それからお客さんがやってきて、私達は気持ちを切り替えた。
いつまでも浮かれた気分ではいられないから、
しっかりしなければマズい。
それからあの雑誌に私のお店が紹介されていた。
きちんと雑誌を購入して確認したけれど、どれも私の予想とはかけ離れていてすごかった。
思っていた以上に、詳しい解説がされていると言うか、いつの間に撮影していたのか分からないが、私が料理を作っている風景画取られていた。
決して嫌なことではないけれど、やっぱり恥ずかしい・・。
店内写真もキレイで、メニューの写真も美味しそうに撮影されていて安心した。
格が違うと言うか、この際ホームページの写真も全て変えてほしいくらいだ。
そうすれば、少しずつ何かが変わっていくかもしれない。
「ハル、うちのお店載ってる!」
「ええ、しっかり綺麗に載せてありますね!
さすがプロの写真は違いますね!」
いつかこの雑誌で紹介されたいと考えていたが、本当にその夢が叶ってしまった。
もしかして、私の運をここですべて使い果たしてしまったんじゃないでしょうね?
今後は一切幸せなことが無いとか・・・。
それだったら嫌だな・・・。
紹介文を見ると、より詳しいことが記載されていて、理想以上だった。
スタッフさん達が頑張ってくれたのだとわかって、何だか嬉しかった。
こんな感じに仕上げてもらえて、本当に嬉しく思う。
ハルも満足しているようだし、雑誌の取材を引き受けて良かったな。
やはり雑誌の影響なのか、予約したいと言うお客さん達が増えて電話が鳴りっぱなしだった。
予約したいと言うお客さんに対して、空いている日にちを伝えていくが、誰もそんなに遅いならいいです、と断らなかった。
それに対して私たちは驚いてしまった。
今まで断られてしまい、お客さんを逃がしてしまったことがあるから。
さすが雑誌の影響力!
ますます頑張らなきゃいけないって思った。
「さき、14日って予約している方います?」
「14日・・・ううん、今の所はいないよ」
「それなら予約のお客さん入れちゃいますね!」
「おっけーい!」
次々に予約してくれるお客さんが集まって、嬉しくなってきた。
その分忙しくなるけれど、それが生きていると言う証になると思うからどうってことない。
二人で切り盛りしていくことが難しくなってきているのは確かだけれど、誰かを雇う余裕もない。
もう少しお店が軌道に乗るまでは、新しい仲間を増やすことは難しそうだ。
それに、それは私が決めることではなくて、ハルにも相談しなくちゃいけないことだし。
キッチンに一人入って欲しいけれど、出来れば調理師免許を取得している人の方がいいな。
全く知らずにただ料理が好きな人でもいいけれど、衛生面などの知識もあった方がいいと思うんだよね。
「ねぇ、ハル、新しい人を増やすとしたら、どんな人がいい?
私としては、調理師免許を取得している人がいいんだけど・・・」
「そうですね・・・私は免許を持っていない人でも構いません。
ですが、明るくて親しみやすい方がいいですね!
もっと欲を言えば、男手が欲しい時がありますから男性の方が嬉しいです」
なるほど・・・明るくて親しみやすい男性か。
確かに私たちは女性だから、力仕事がきつい時もある。
そんな時、男性がいてくれると確かに助かると思うし、頼もしい。
具体的なことを全く考えていなかったから、言われて納得した。
新しく仲間として募集するなら、男性の方がいいのかもしれないな。
今はまだ考え中だけれど、機会があれば募集をかけてみよう。
「自分が面接する側になるって、変な感じがする!」
以前は私が面接してもらう側だったから、変な感じがして落ち着かない。
私はちゃんと人を見る目があるのだろうか・・・。
その時が来たら、ハルと一緒にじっくり考えて新しい仲間を決めて迎え入れよう!