時間が経つのは、本当に早くてあっという間。
こんな感じで今までも時間が過ぎていたのかと思うと、すごく勿体ない過ごし方をしてしまったような気がして後悔する。
今日はいよいよ、通信制高校へ通う日。
一体どんな服装をすればいいのか分からなくて、困ってしまう。
私は携帯でどんな服装が望ましいのか、色々調べてみることにした。
検索すると、特に決まった服装はなく自由でいいと出てきて驚いた。
そう言えば、通信制高校には制服が無いんだよね。
私はなるべくきれいな洋服を着ていくことにした。
通信制だから来なくていいと言ったんだけど、お父さんが来てくれることになった。
途中まで一緒に行き、学校の前に着いた。
「さき、しっかりな」
「うん、来てくれてありがとう。
・・・行ってきます!」
お父さんと別れて、私は一度職員室へと寄った。
今日から入るのは私だけじゃないみたいだけど、何だか緊張する。
私は担任と一緒に教室へと向かって、教室に足を踏み入れた。
そこには何人もの生徒の姿があって、同じ年齢のような人もいれば年上の人の姿もあった。
あれ、通信制高校って同じ年齢の人だけじゃないんだ。
担任に促されて、私は勇気を出して口を開いた。
「神楽さきです、よろしくお願い致します」
そう言って丁寧に挨拶をすると、みんなが拍手をしてくれた。
このクラスでうまくやっていけるかな・・・?
決められた席に着いて、早速少し授業を受ける事になった。
私の隣に座っているのは、黒髪に青いメッシュを入れている女の人だった。
自分の教科書を開いてノートを取りながら、授業を受けていく。
この感じ、本当に懐かしい。
久々の授業だったせいか、時間の流れが早く感じた。
授業が終わって、今日は帰っていいことになった。
帰り支度をして、私は教室を出てクラブ見学をすることにした。
どんなクラブがあるのか、ずっと気になっていたから楽しみだ。
色々見学していると、野球部とかテニス部、バレー部、バドミントン部などたくさんあって見ていて面白かった。
もちろん、運動系だけではなく文科系もたくさんあって面白かった。
「わぁ・・・色々あるんだな」
バイトをしているから、クラブ活動はしない方がいいのかな?
でも、クラブ活動をすることで何かが変わるような気がする。
迷いながら歩いていると、中庭に人だかりが出来ていた。
あれ・・・何かあるのかな?
遠くから確認してみると、先程私の隣に座っていた女の人が絡まれていた。
それも何だかガラの悪そうな連中に。
連中といっても5人くらいだから、多いとは言えない。
彼女が地面に座り込み、足で蹴られたりしている。
どうしよう、助けなきゃ・・・!
「何してんだよ!!」
私はそのまま連中につかみかかり、取っ組み合いが始まった。
取っ組み合いになって気付いた、この連中隙だらけで弱い。
私はある程度手加減をして、連中をねじ伏せていく。
もちろん、ケガは擦り傷程度に抑えてあるから問題ない。
すると、連中は“覚えてろよ!!”と言い残して逃げてしまった。
私はバッグからちょっとした救急セットを取り出した。
実は、ハルに持っておいてください!なんて言われて持ち歩いていたのだ。
まさか役に立つとは!
「あんた、新入りの奴じゃないか。
ケンカ強いんだね?」
「はい、こう見えても空手を習っていたので。
それよりもケガとか大丈夫ですか?」
「ああ、心配ないよ。
あんた、バレー部に入ってみないか?
それだけ力があるなら、スマッシュも強そうだ。
あ、あたしはマコトだからよろしくね!」
いきなり言われても、頭がついていかない。
バレー部に入らないかって、ユニフォームとか靴とかそろえるの大変そう。
それに、そんなに暑苦しそうなクラブは正直避けたいと言うか。
私が黙っていると、マコトさんが私の手を取り走り出した。
えっ、ちょっと待って、私まだ何も言ってないのに・・!
向かった先は言うまでもなく、大きな体育館だった。
バドミントン部と半分ずつに分けて使っているみたい。
「おーい、期待の新人ルーキーを連れてきたぞー!
神楽さきだ!」
「え、私、バレーなんてやったことないし、ルールだってわかんない・・・っ」
すると、部員たちが喜び盛り上がり始めた。
待って、このままじゃ正式に部員になっちゃうじゃない!
何も知らないのに、急に始めるなんて難しいし無理に決まってる。
でも、よく見てみるとみんな比較的に身長が低いような?
とにかく、話を聞くだけ聞いて考えさせてもらおうかな・・・。
皆から話を聞くと、部員が辞めてしまって困っているのだとか。
エースがいないらしく、探していたところに私が現れたと。
「マコトさん、身長おいくつなんですか?」
「あたしは170㎝だけど、みんなは160くらいかな・・・。
さき、あんたはどうなの?」
「私は165ですけど・・・」
「さき、ジャンプ力ある?」
「うーん、ないような・・・」
ジャンプ力なんてないと思う。
大体跳んだことないし・・・ただ、走り幅跳びはいい記録を出したことがあるけど。
ちょっと待って、このままじゃ本当に入部させられるんじゃ・・・。
私は、再度ルールがわからないことややったことが無いことを伝えた。
それでも、少しずつ覚えていけばいいからと言われて、結局入部させられることに。
参ったな・・・バイトもあるのにやっていけるかな。
「じゃあ、明日から練習始めるからね!
今日は解散!」
マコトさんが言うと、みんなそれぞれ散らばった。
私も帰って早速課題を進めようかな・・・スクーリングで提出しなきゃいけないし。
すると、マコトさんが私の腕をつかんできた。
まだ何か用でもあるのかな?
尋ねようとしたら、マコトさんが歩き始めてしまった。
何も聞けないまま、ただただついていく。
着いたのは、ちょっとしたグランド場だった。
「黙って連れてきて、ごめん。
さっきの連中なんだけど、昔絡んでた不良仲間なんだ。
縁を切ったはずなんだけど、しつこくてね」
マコトさんも、私と同じで元不良だったんだ。
なんとなくそんなような気がしていたけど、やっぱりそうだったんだ。
どうして私にそんな話をしてくれるんだろ。
私が助けたから、説明しなきゃって思ったのかな?
マコトさんも不良をやってた時期は、すごい事していたのかな。
「マコトさん、どうして通信制高校に?」
「ああ、このままじゃいけないって思ったからかな。
母親も父親も心配してたしさ、それで通ってるんだよね」
私と同じ・・・このままじゃいけないって思ったんだ。
誰かに言われたわけではなくて、自分で気付けたなんてうらやましい。
私はちゃんと言われるまであいまいだったから・・・。
マコトさんは苦笑しながら過去のことを話してくれた。
以前はよく警察沙汰を起こしていたことや、取り返しのつかないことをしたとか。
そんな時、母親にこう言われたらしい。
“お願いだから人間として生きて欲しい”と。
泣きながら言われて、マコトさんは足を洗ったらしい。
「そういえばさ、さきはどうして通信制高校に来たの?
真面目そうなのにさ、何かあった?」
「過去にいじめられて、不良グループに入ったんですよ。
でも、自分のしていることが正しくないんじゃないかって考えて。
友達にも相談して、ケジメをつけて通信制高校に来たんです」
「だからあんな強いのか!
あたしとさきは、似た物同士なのかもね」
マコトさんは笑いながら言う。
似た者同士・・・お互い不良だったから分かり合えることもあるかもしれない。
マコトさんも今、正しく生きようとしている最中なのかもしれない。
私も負けないように、一生懸命努力して頑張っていかないと。
それから私たちは途中まで一緒に帰ることにした。
季節はもうすっかり秋になっている。
風も少しずつ冷え始めて、陽が落ちるのも少しずつ早くなってきた。
そして、離婚の話が持ち出されて話が進められている。
母親は私を嫌っているから、離婚には前向きな姿勢だった。
兄も母親の方へついていくことになって、もう離婚までそう日が無かった。
ただ、今住んでいる場所は父親名義の為出ていくのは母親側だった。
「お前の顔見なくていいから、ストレスが減るよ」
「それはお互い様だろうが。
さっさとここから出ていけ」
私は冷酷に言い返した。
散々私を見下し蔑んできた人物がいなくなる。
これからは、別々の人生を歩んでいくことになるんだ。