後日、夕方のニュース番組を見てみると私のお店が特集されていた。
あの時は緊張しないためにと、色々気を紛らわせて仕事に集中していたから、すっかり存在を忘れてしまっていた。
それがいけなかったのか、特集の中で私は変わり者扱いされてしまっている。
変わり者として扱われるのは慣れているけれど、何か違うんだよね・・・。
私や本村が料理している姿が流れ、色々テロップが入れられているが、本村は映りがいいのかシャキッとしている。
私は映りが良くなくて、印象がまた違っているような気がする。
だけど、メニューは美味しそうに映っているから満足だけどね。
湯気が出ていて、よそっている人が美味いからなのか、さらに美味しそうな画になっている。
我ながらそのメニューを食べたいと思ってしまうほど、美味しそうに撮ってくれている。
「良かったですね、さき!
すごく美味しそうじゃないですか!」
「うん、さすがプロカメラマンだよね!
っていうか本村ばっかり映ってない?」
「俺がさぞかし魅力的だったに違いない!」
「よく言うよ、卵割ってる時しかスポットライトなかったじゃん!」
「そういう神楽は、失敗している時しかスポットライトを浴びていなかったじゃないか~」
二人で言い争っていると、ハルが笑い始めた。
お互い卵を割っているときの姿が、映されてテレビで放映されていた。
嫌なところばかり取られてしまったような気がするな・・・。
これ、どんな反響になるんだろう・・・お客さんが減っちゃったら嫌だな・・・。
その時、一本の電話が鳴った。
その電話に出てみると今日お店を予約したいと言うものだった。
いつも少し余裕を持って予約を承っているから、少しなら枠が空いている。
来るのは2名という事で、そんなに場所もとらないし予約を許可することにした。
ハルと本村に伝えると、早速意気込んでいた。
それから私たちは準備をして、開店時間を迎えた。
予約したお客さん達がぞろぞろやってきて、にぎやかになった。
さっきまでは静かだったのに。
別に賑やかなことが嫌いなわけではない。
ただ、あまりにもガラッと変わるものだから少し驚いただけ。
「さきちゃん、テレビ見たよ!
まさかあの番組で特集されるなんて、すごいじゃないか~」
「私も見ました!
神楽店長、卵片手で割れないんですね?」
「だいじょーぶ、俺も割れねぇから!」
お客さん達が楽しそうに笑いながら、そう話す。
あの番組は夕方にやっているから、主婦は見ていると思うけど働いている皆も見てくれていたんだ?
夕方18時過ぎの特集だから、会社が終わってから携帯で見ている人が多いのかもしれない。
あのテレビを見たと言う人は、あの卵の件を知っているという事だよね?
現に今も言われているし・・・・あぁ~あ、嫌だな・・。
俺も割れないから大丈夫って、嬉しいような悲しいような。
私以外にも仲間がいると思うと落ち着くけれど、出来れば私も片手で割れるグループに入りたい。
いくら練習しても難しくできないから、諦めた方がいいのかもしれないな。
「何だったら俺が教えてやってもいいぜ?」
すると、本村がにやりとしながら言った。
そのしたり顔にイライラが増してきてしまう。
自分が出来るからって、上から目線で話されるのは嫌だ。
確かに片手で割れるのはすごいと思うけれど、そんなえばる事でもないような気がする。
私はキッチンで料理を作りながら色々考えを巡らせていく。
「お断りしますっ!」
「なんでだよッ?!」
「本村教えてもらって出来ても、何かヤダもん」
「そんなこと言うなって~」
私達がそう言い合っていると、再びお客さん達が笑い始めた。
本村の事を話すと、お客さん達は驚くどころか納得していた。
え、ちょっと待って、なにその納得の仕方!
お客さん達の話では、私と本村は同じ匂いがするし、まるで双子の姉弟みたいだと。
姉弟みたいって、特に一緒に居ても何も変わらないっていう事?
似通っているのは仕方がない。
お互い不良として名をはせていたから。
だから姉弟に見えてしまうのかもしれない。
姉弟と言えば、あれから兄の事を一度も考えたことが無かった。
兄がいることさえ、すっかり忘れてしまっていた。
比較されることが多かったから、忘れてしまっていたのかもしれない。
今頃何をしているんだろう。
私よりも優秀だったから、今頃エリート街道まっしぐらだったりして。
母親と一緒に出て行ったけれど、一緒に暮らしているのかな?
お父さんも連絡を取りたがらないから、どうなっているのか全く分からない。
別にどうでもいいけどね。
「あれ、神楽お前ってさ確か兄貴がいなかったか?」
「昔居たけど、離婚してから一切連絡してないし。
居ることすらすっかり忘れていたところ」
「さき、お兄さんとは仲がよろしくなかったんですよね?
大きなお世話かもしれませんが、少しだけ会ってみてはいかがですか?」
少しだけ会ってみる?
いや、今まですっかり忘れていたという事は、関心が無かったという事だから無理に
会う必要なんてないと思う。
会ったって特に話すこともないし。
それに、向こうだって私の事なんて忘れているし、顔も覚えてないんじゃないかな。
そんなことを話していると、お客さんの一人が話に入ってきた。
「今はそう思っていても、会いたい時に会えなくなってしまいますよ。
会える時会って話しておいた方はいいと思います」
そう男性が言った。
確かにそれはあるし、いなくなってからではもう話すことが出来ない。だけど、会いたいと言うき気持ちは全くない。
会ったってどうせまた兄と比較されるのだから、うんざりだ。
もう比較されるのは面倒だから嫌だ。
まさか家族に比較されて傷つけられるとは思っていなかった。
普通は味方になって守ってくれる存在であるはずなのに。
お客さん達も、仲直りじゃないけど話しておいた方がいいと力強く言っている。
あまり気が進まないし、第一私は兄たちの連絡先すら知らない。
まぁ、もうどうでもいいや。
そうお客さん達と話していると、お店にある人物たちがやって来た。
私はその人物たちを見て絶句してしまった。
何故なら、お店にやってきたのは・・・・兄と母親だったから。
どうしてこのお店の事を・・・?
「さき・・・来てしまったわ」
母親が消え入りそうな表情をしながら言う。
もしかして、私の見ているゆめ?
いや、手の甲をつねると痛いから夢ではないんだ。
じゃあ、今目の前にいるのは本物の二人?
何て声をかけたら良いのか分からなくて、私は黙っているしか出来なかった。
あれからもう何年も経っていて別人のようにってしまっておる。
「ちゃんと謝りたくて、ここへきてしまったの。
あの時は本当にごめんなさい」
「俺も悪かったよ、すまない」
私に謝りたくて、わざわざお店まで来てくれたの?
別に電話でも良かったのに。
二人が頭を深々と下げて、そのまま身体を起こさない。
もういいと思って、私は二人に顔を上げるように言った。
あの頃はとても許せなかったけど、今なら許せそうな気がする。
私ももうあの頃のような子供ではない。
少しずつだけど、大人としての階段を上っている最中。
「謝らなくても大丈夫だよ。
特に気にしてないし、こうして会いに来てくれたんだもん。
せっかくだから、私の作った料理食べて行かない?」
「さきがそう言うなら、お言葉に甘えましょうか」
「ああ、実は腹ペコだったんだ。
さき、料理作れるようになったんだな!」
「まぁね!」
高校生の頃は本当に何もしていなかったから、ギャップがあるのかもしれない。
料理が出来なさそうで出来るっていうことに、驚いたのかもしれない。
私も我ながら驚いている。
兄と母親の前にメニューを出して、私はじっと見つめた。
味はどうかな・・・。
家庭で出されていたものとは、また味が違うから受け入れてもらえるのか分からない。
兄と母親がメニューを口へと運んでいく。
「あら、この料理美味しいじゃない!
よく出来ているけれど、少し調味料を入れた方がもっと美味しくなるわよ」
「確かに美味しいな!
全部自分で考案したのか?」
「ううん、ハルと一緒に考えながら決めたんだよ。
私だけじゃなくて、ハルがいてくれるからこのお店は成り立っているんだよ」
「さき、言い過ぎですよ!」
「だって本当の事だもん」
私一人だったら、きっと何も出来ていなかったと思う。
母親も兄も楽しそうにしている。
美味しそうに私の作ったメニューを食べてくれている。
あの時、もう二度と会う事なんかないと思っていたけどこうして再開するなんてね。
運命とは本当に不思議なものだ。
仲直りしたことで、二人が今住んでいる場所や連絡先を教えてくれた。
お父さんにも教えてあげたいけど、嫌がったりしないかな?
お父さんとお母さんは仲が悪かったから、あまり話さない方がいいと思って、なるべく母親や兄の話をする事だけずっと避け続けてきた。
今回、私のお店に来たことも話さない方がいいのかな。
だけど、隠し事をしているみたいで嫌だから、少しだけ話して様子を見てから、少しずつ話していくようにしてみようかな?