今日はいよいよ、私が通っている通信制高校の卒業式。
ハルとは数日遅れでの卒業式で、私は柄にもなく緊張していた。
何故かと言うと、ハルが私の為にコーディネートしてくれた洋服が派手だったから。
上品さもあるけど、私は上品とは縁がないから落ち着かない。
名前を呼ばれてステージへと上がるが、緊張して変な歩き方になってしまう。
転んでしまいそうで怖い・・・。
頑張って、卒業証書を受け取りステージから降りていく。
参列者の視線を感じて、私は呼吸もままならなかった。
卒業生の中には着物を着ている人もいて、格好は本当にバラバラだった。
「以上を持ちまして・・・」
そうアナウンスされて、私達卒業生はそのまま外へと向かった。
何て言うか、本当にあっという間に感じる。
この2年間、私は多くの事を学ぶことが出来たんじゃないかって思う。
途中から編入することになって、不安もたくさんあったけど、みんな分け隔てなく仲良くしてくれたから、楽しく過ごすことが出来たんだ。
すると、マコトさんがやってきた。
「今日でいよいよ卒業かー!
何だかあっという間だったな・・・最初は長いと思っていたけどさ」
「そうですね、今日でこの学校とはお別れです。
そう思うと、何だか・・・ううん、すごく寂しいですね」
「ああ、全くだよ」
スクーリングで月に何度か通った教室や校舎。
狭くてぎゅうぎゅうだった教室、緑の多い木々に囲まれた大きな校舎。
試合の為に何度も練習で使った、広い体育館。
体育祭で走った大きな校庭、落ち込んだ時によく行っていた屋上。
全てが私の思い出に刻み込まれている。
こんなに思い出が詰まっている場所を離れると思うと、すごく寂しく感じる。
マコトさんも同じことを考えているのか、その目には涙が浮かべられていた。
「マコトさんは、今後どうするんですか?」
「あたしは、デザイン事務所に就職することにしたんだ。
ほら、お店のデザインを考えたりするヤツ!」
そうか、デザイン事務所に就職したんだ。
そう言えば、昔からよくデザインの本を眺めていたっけ。
全く気が付かなかったから、正直少しだけびっくりした。
でも、マコトさんは意思が強いからきっと成功できると思う。
いつかお店を持てることになった時には、頼んでみようかな?
「さきー、みんなで来ちゃいました!」
声がして振り向くと、ハルが皆を引き連れてやってきた。
お父さんや上原さん、お店の常連客の人達も一緒に。
まさか、こんなに連れてくるなんて思ってなかったから、かなりびっくりしている。
お父さんとハルはわかるけど、まさか常連さんや上原さんまで来てしまうとは。
私の格好を見てみんながわーっとした。
お父さんが“馬子にも衣裳だな”と言って笑うと、みんなも笑った。
確かに私もそうだと思ったけど・・・でも笑ってくれているなら、別にいっか。
マコトさんが驚いてみているから、私は紹介した。
「こちらは私の友達のマコトさん。
それでこちらが向坂ハルさんと私のお父さん、バイト先の上原さん。
そして、バイトの常連さん達です」
「さき、あんた人脈かなり持ってるじゃん!
はじめまして、工藤マコトです」
マコトさんがそう話すと、みんなすぐに打ち解けて話し始める。
良かった、みんな打ち解けることが出来たみたいで。
気が付けば、私は会話から置いてけぼりにされてしまった。
だけど、まさか私みたいな人間が通信制高校を卒業できるなんてね・・・。
高校を卒業できるなんて思っていなかったから、すごく驚いている。
私は校舎を見つめながら、今までの思い出を振り返る。
最初は母親から兄と比較をされて、何もかもが嫌になって不良グループに入った。
それから万引きをしたりスリをしたり、時には相手を傷つけたりして楽しんでいた。
人の不幸を見ては楽しんでいる自分がいた。
自分とは関係が無いからと言って、ひどいことを多くしてきた。
でも、だんだんそんな自分の行動に疑問を抱くようになって、ハルが声をかけてくれた。
少しずつ仲良くなっていって、今では親友になっている。
「さき、どうしました?」
「今まで色々あったなーってさ・・・」
「確かにそうですね・・・。
でも、あの頃と比べて今のさきはすごくいいと思います。
一生懸命で頑張り屋で相手の気持ちを理解できる、とても、とても優しい子になった」
「私も、成長できたんだね」
どうしてハルの言葉はこんなにもあったかくて心地いいんだろ。
今までお父さんにはずっと迷惑をかけて、心配させてしまった。
親孝行らしいことなんて、何一つしてあげられていない。
私に何が出来るんだろ・・・今まで酷かったから何かしてあげられたらいいんだけどな。
すると、お父さんと目が合った。
今までに見た事の無い優しい表情をして、私を見ていた。
「お父さん、今日まで本当にありがとう。
迷惑ばっかりかけてごめんなさい・・・でも。
これからは、お父さんに恩返しと言うか私に出来ることするつもりだから」
「馬鹿だな、心配したり迷惑かけられるのが親の仕事だ。
お前は気にしなくていいんだよ」
お父さんがあまりにもくしゃくしゃな表情をして笑うから、思わず涙がこぼれた。
こんな風にして笑うお父さんを見るのは、子供の頃以来だ。
もうずっとみることなんてなかったから、思い出がよみがえって泣けてきた。
本当だったら、この場に母親や兄が来ていたかもしれない。
仲直りなんて出来ないし、もう二度と会う事なんてないと思う。
それでも、私は後悔なんて全くしてない。
だって友達がいるしお父さんだっている、上原さん達もいてくれるから寂しくなんてないよ。
今まで傷つけられて何度も泣いてきたけど、それでもまだこうして笑っていられる。
悲しみや傷を糧にして、私はこれからも生きていくんだ。
痛みがわかるから、私は他人を傷つけたりしないようにしていきたい。
「どうしたんだよ~、泣くなって!」
マコトさんがそう言って、私の頭をくしゃくしゃに撫でてくる。
それがさらに私の胸を強く締め付ける。
今まで一度も人前で泣いたことなんかなかったんだ、情けないと思って。
今だって泣き止みたいのに、それが出来ずにこうしている。
そんな私を見たみんなが笑っている。
その時、バレー部のみんながやってきて、混ざってきた。
「神楽、どうしたのー?
そんなに泣いたら、つられて泣きたくなっちゃうじゃない!」
「ごめん・・・何か感情がこみ上げてきちゃって」
バレー部のみんなと泣き笑いながら思い出を語っていく。
通信制高校に通っていたのに、自宅で過ごしていた思い出が少ない。
皆と一緒にスクーリングで勉強したり、行事に参加したり部活動をしたり。
本当に充実した2年間を過ごすことが出来たと思う。
かけがえのない、大切な宝物。
このまま解散するのは寂しいからと言って、みんなで上原さんのお店へと向かう事にした。
今日はお店を貸切にして、盛り上がる。
お好み焼きをなぜが主役である私が作って焼いていき、みんなで分けて食べていく。
でも、こんな風に大勢で楽しく食べるのもいいなぁ・・・。
「さきちゃん、ほらもっと焼いて食べて食べて!」
「私が作らされてるから食べれないじゃないですか!
お腹空いたーっ!」
私はどんぶりをマコトさんに渡した。
すると、マコトさんがお好み焼きを作り始めたが、その手つきがすごかった。
何て言うか、妙に手馴れているような・・・。
私よりも鉄板をよく見ているような、焼き加減の調節が上手と言うか。
じっと見ていると、常連さん達が口を開いた。
「マコトちゃん、上手だね~!
もしかして、前にバイトしてたのかい?」
「いえ、あたし関西出身なんでお好み焼きならお任せあれ!」
「えっ、だったら最初からマコトさんにお任せしたかったですよ~!
私すっごくお腹空いていたんですよ!」
「まぁ、怒るなって~、ほら、さきの分出来たよ!」
そう言って、私のお皿にお好み焼きを乗せてくれた。
やっとお好み焼きが食べられる!
しかも、きっと本場の味!
私は子供のようにむしゃむしゃ食べ始めていく。
やっぱり、関西の人が作るお好み焼きはすごく美味しい。
「さき、子供みたいですよ~!」
「こらさき、そんなに頬張るもんじゃないぞ」
ハルとお父さんが笑いながら、私に注意してくる。
だって美味しいから仕方ないんだもん!とは言わなかった。
そんなこと言ったら、余計子供みたいって言われると思うから。
ご飯を食べ終えて、あっという間に楽しい時間は終わってしまった。
これから私たちは別々の道を歩むことになる。
そう思うと、何だかしゅんとしてしまった。
「さき、もう二度と会えない訳じゃないんですから。
そんな悲しい表情をしないでください、ね?」
「そうだよ、会いたい時に連絡とって会おう!
だからさき、そんな泣きそうな表情するなって」
二人が笑いながら言った。
これが永遠の別れと言うわけではないんだよね?
またいつでも二人に会えるよね?
私達はハルが大学を卒業する4年後に再会する約束をした。
4年後、私達はどんなことをしているのかな?